四月の風が、まだ少しだけ冷たさを残してグランドを抜けていく。
短大の新入生歓迎会―例年なら、学友会の2年生たちが中心となって準備を進めるはずの行事だった。
だが今年は違った。
学友会のメンバーは、なんと「ゼロ」。
誰もいない学友会室の静けさが、その事実をいやというほど突きつけていた。
「どうしようか……」
思わず漏れた教員のつぶやきに、返事をしたのは意外な人物だった。
昨年の歓迎会で、ドッジボールに全力で笑い転げていた2年生の女子学生2人。
彼女たちは、まるで待っていたかのように手を挙げた。
「先生、ドッジボールできるなら、バイト休んででもやりますよ」
「去年、ほんまに楽しかったんです。あれ、もう1回したいです」
その目は、冗談ではなく本気だった。
彼女たちに学友会のメンバーがいない事情を伝えると、むしろ嬉しそうに笑った。
「じゃあ、ビンゴの景品、私ら買いに行きます」
「当日の運営もやります。ドッジボールの準備も任せてください」
頼もしさに胸が熱くなる。
だが、教員にはひとつだけ気がかりがあった。
「ドッジボールを怖がる学生が少なからずいる……」
そう伝えると、彼女たちは、少し考えてから、ぱっと表情を明るくした。
「じゃあ、希望者だけでいいやん」
「歓迎会が終わってから始めたら、参加したい人だけ来れるし」
その提案は、驚くほど自然で、優しかった。
そして迎えた当日。
新入生歓迎会が終わって、体育館には――
30人近い学生たちが、笑顔で集まっていた。
ドッジボール、縄跳び、バレーボール。
思い思いのスポーツを楽しむ声が、体育館の天井に響き渡る。
その光景は、誰かに「やらされた」イベントでは決して生まれない。
学生たち自身が「やりたい」と願い、動き、つくりあげた時間だった。
そして、さらに驚くことが起きた。
このスポーツ交流があまりに楽しかったから―という理由で、
1年生と2年生あわせて20名が、今年度の学友会に入会してくれたのだ。
「こんな楽しいこと企画できるなら、私も入りたい」
そう言って笑う新入生の姿に、胸がじんわりと温かくなる。
学生が主体となって動いたからこそ、心に響いた。
満足感が生まれた。
そして、「自分もその輪に入りたい」と思わせた。
あの日、体育館に響いた笑い声は、
ただの行事を越えて、学生たちの未来を少しだけ変えたのかもしれない。
(保育学科教員 香月欣浩)


